[意識の高さ]週末のイベント参加費は身体で稼ぐ

諭吉が溶ける。差し迫る恐怖に僕は目を覚ました。

ベッドから飛び起きた僕は財布の中身を確かめる。日雇いで稼いだナケナシの野口英世が4枚と、以前より連れ添っている福沢諭吉が1枚、枕もとの明かりの下に並べられた。

対して、今回参加するイベントの総経費は交通費片道990円、往復で1980円だ。

そこに加わるのが参加費2500円、ということは合計計4480円。。これは、、ジリ貧生活において生死を左右する程の莫大な出費である。

フェイスブックにて、お金のことをロクに何も考えず「参加予定」を押したイベント。

それに関わる出費を、当日の零時を過ぎてから計算してしまい、後悔に襲われていた。こんな時間にドタキャン出来ないだろう。

払えないことはない。しかしその後に控えているいくつかの約束を「金がない」という理由で反故にしてしまうかもしれない。それが情けない。

問題はそれだけではない。4480円という出費は、4枚の野口英世を貫通し、さらにその端数が、虎の子の福沢諭吉に達するではないか。

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これの福沢諭吉はタダの一万円分の紙幣ではない。僕が日雇い労働から逃げ帰った折、唯一財布に入っていたのがこの福沢諭吉だった。

彼がいるから1週間先の未来を信じることが出来た。その0の数、その威厳ある表情、その滑らかな質感が「まだ一万円ある。。」と僕を卑屈にせず、ここまで支えてきた。それはまさに、このジリ貧生活を維持するうえでの精神的支柱だった。

この諭吉とも明日でお別れか。数週間連れ添った彼の最期を予感し、僕は瞼に込みあがってくるものを感じた。

枕もとの白熱灯下がそんなセンチメンタルな想いを掻き立てる。当の福沢諭吉は威厳を崩さず、「学びのためなら尚よし」と僕に諭しているようだった。

僕には、毎日野口英世が一人、また一人と減っていく生活が耐えられない。この福沢諭吉を失えば、僕はきっと小銭が落ちてないか下ばかり見て歩くだろう。

河原で野草を探し歩いたり、パン屑を拾い集めたり、そんな精神状態になってしまうかもしれない。

だからあなたはそばにいてくれるだけでいい。そばにいて安心を与えてくれるだけでいい。僕は諭吉にそう囁き、眠りについた。

「よし、今日の参加費と交通費は身体で払おう」、起床した時、僕はそう決心を固めていた。

今回のイベントは、京都と奈良の県境にある、京都府の和束町というお茶の名産地にて行われる。

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この時期よくある、「茶摘み体験」のイベントなのだが、それに加えてお茶の葉を使ったピザ?が食べられたり抹茶アート?なども体験できるという盛りだくさんな内容だ。

しかしお金がない僕は、この内容だけでは「参加予定」を押さなかっただろう。僕はこのイベントの主催者であるNさんに興味があった。

Nさんとは、以前ある茶寮の一周年記念パーティーにて知り合った。その時はあまり話さなかったのだが、話を聞いてみれば、Nさんは何年か前に脱サラして、今は和束町でお茶や油の生産する会社を営んでいるらしい。

なんで和束町なんですか?どうして今の仕事始められたんですか?と色々聞いてみても、「場所はダーツが刺さったから」「職業はルーレット回したらそうなったから」と煙に巻かれる。

もし和束町と外国人部隊や、鰹節職人などの組み合わせだったならどうしたのだろうか。

しかし、そういったいじわるで秘密主義なところが反って好きになり、僕は今回のイベントの参加を決めた。

今回、会場となった和束町は、いわゆる「宇治茶」の産地だ。宇治茶の総生産量における、約5割近くを生産している土地らしい。

しかし京都市内の人にそのことははあまり知られていないし、和束と聞いて場所がわかる人も少ないらしい。

かく言う僕も和束町のことをよくわかっていない。なにか、京都と奈良の国境紛争地帯の村、といったイメージがある。

奈良県民は今も京都に生存圏を脅かされながら、鹿を増やし京都の侵攻に備えている。

待ち合わせ場所の着き、他の方の集合を待つ。残念ながらNさんは僕の名前を覚えてなかったが、何故か僕が貧乏だということはご存じだった。

今回の参加者は、僕を除けば5人だけだった。このイベント自体、大々的に募集したものでなく、フェイスブック上にて招待を受けた人のみに告知されていた。

参加者はお互い割と見知った間柄の人たちが主で、イベントのお客様というより、友達が主催する集まりに来た、といった雰囲気が漂っていた。

おそらく利益を出そうという考えはなく、これから似たような体験型イベントを行う上で、試験的に開催されているようだった。

ということは、まだ未完成な部分が多く、探り探り行われるのかもしれない。つまり僕が参加費を負けてもらうため入り込める「スキマ」は多い。

迎えの車に乗り換え、集合場所から和束町へと向かう。和束町は、地表の70%が茶畑で覆われている、そんな町だった。

まずは、お茶摘み体験の拠点となる古民家にて荷物を下ろした。その後一行は古民家を出発し、和束が一望できる高台にある茶畑を目指した。

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数十メートル歩いたところで、僕はしれーっと茶葉を入れる籠や休憩用のお茶が入ったポットを、主催者の代わりに持つようになった。

そして、高台に着くころには「さあ、みなさんお茶ですよ!」と各自に紙コップを配っていた。そう、スタッフとしてふるまい始めた。

その後も、お茶摘みへ向かう道中など僕は率先して、時に奪い取るように荷物を持った。

しかし、ただの荷物持ちが、参加費をタダにしてもらうのは少し面の皮が厚いのではないか。

参加費分価値を生むため、単純労働だけではだめだ。そのため、このイベントにおいてわしの価値を出さなければならない。

そして帰りの交通費を稼いでやると意気込む僕は、飢えていた。

古民家に戻り、休憩と食事の時間になった。この頃になると、もう当たり前のように「茶葉を洗って干しておいて」など僕に仕事がふられるようになっていた。

そこで「自然光が入るから、こっちに食事机を置いた方が、食べ物がおいしく見えますよ」などと色々提案してみたり、徐々に存在感を出していく。

ピザを焼く準備が出来た時だった。主催者の方からお茶の葉をどうピザにのせ、どう焼くか説明を聞いてみる。

どうやら今回使うピザ釜を初めて使うらしい、しかも主催者はあまり料理に詳しくなさそうだった。チャンスだ。

「僕が焼きます。任せてください。」

そう申し出てみる。お茶の葉ピザはこのイベントの言わば、メインディッシュだった。それを失敗することは許されない。

しかし、それくらいしないと、参加費をタダにして貰った挙句、「交通費も下さい!」なんて言えないだろう。主催者側もいろいろと忙しくしているみたいで、僕はこの大役を任せられた。

ピザ窯は火加減が命だ。効率よく火を強めてカリッと焼き上げねばならない。何故だか、僕は小学生の時から火の扱いが上手かった。

小学校の焼き芋大会にて、他の班は未だ火種さえ起こせていないのに、僕が担当したたき火だけは魔女裁判の如く燃え盛っていた。

そうした呪術的に火の扱う能力を活かし、僕は計4枚のピザを焼いた。1枚ごとに焼き方を変え味わいにバリエーションを出す工夫をしてみた。

そして毎回実験を重ねることで、完成度を高め、4枚目は生地全体がカリッとした理想的な焼き加減に仕上がった。皆に「おいしい」と喜んでもらえ、とても嬉しかった。

こうして僕が外で黙々とピザを焼いていると、古民家の中からは主催者と参加者の談笑が聞こえる。ここまで来るともう僕主催のイベントのような気さえしてきた。

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ピザ焼きがひと段落した折に、皆で改めて自己紹介をした。参加者は少ないながらも、みな面白い人ばかりだった。

僕の番になった時、一瞬困ってしまった。僕は今、人に名乗る身分がない全くのぷー太郎だ。こういう時はどうすればいいのか。

今のところ皆に与えている印象といえば、「貧乏だからこき使われている、美味いピザを焼く宮崎という男」といったところか。

ならば何かフリーランスな感じ、且つ如何にも「自分の妄想を佃煮にして売っている」ような職業人だと言ってやろう。

「僕は日雇いブロガーです。日雇い労働を脳科学的な見地から分析してブログを書いています」と言ってみた。

へえ面白そうですねえと隣の人が答えた。今日からどこへ行ってもしばらくこう名乗ることにしよう。

「早く仕事みつけろよ」

イベントが終わり、Nさんがそう僕に言いうと、その場を後にした。今回、当初お客さんとして参加した僕だが、最終的にその獅子奮迅の働きが認められ参加費が無料となった。

さすがに帰りの交通費まで手に入れることはできなかったがその代わり、かや油?という高級な植物油を貰った。

これはその昔、大名が食べる高級天ぷらに使われていた油らしく、食用油というよりアロマオイルのような強い匂いがした。

家に帰り、試しにこのかや油をサラダと合えたり、魚につけたりして食べてみる。不思議な香りが口に広がる、油なのに意外にあっさりとしていた。これは美味しいのか?なんとも言えない味だ。

だからこそ、これが天ぷらや他の料理に使われた時、どんな風になるのか気になる。世の中にはまだ知らない食い物がたくさんあるようだ。

早く就活を再開して、美味い物をたくさん食える身分にならねば。

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コメント

  1. yumetal より:

    先生、お疲れ様です。
    今回は、ご自身のことに関しての記事でしたね。

    虎の子の諭吉など、相変わらずの表現力に笑らわせてもらいました笑

    茶のピザ、とても興味が湧きました。

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