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[前編]何故、パチスロブロガーになってしまったのか。

2019-05-16

 

「ねぇお母さん、ここへ帰ってくるまではみんながお母さんに『大丈夫?』って聞いたのに、お父さんだけが『大丈夫?』って聞かなかったよね」。

 

これはおいらっくすの姉が小学生の頃、彼女の母にかけた言葉だ。おいらっくすの母は娘と車で遠出している折に、自損事故を起こしてしまった。

 

 

彼らの車は見るも無残に、フロントが変形してしまった。しかし、走行することはかろうじて出来た。

 

 

その日は警察を呼び、事故処理を終えた後、正面が変形しガラスが割れた車で家に帰らざるを得なかったそうだ。

 

おいらっくすの母と姉は、道中で会った土木作業員や休憩に立ち寄った商店の店員などからも「大丈夫ですか?」、「怪我はありませんか?」と身体を気遣った言葉をかけられた。

 

しかし、なんとか家に着いた時、そこにはおいらっくすの父「ヨシヲ」が仁王立ちをして待っていた。そして、彼はなにも言わず母を打った。

 

 

「恐怖の仁王立ち男が待っていたんだよ!」、と当時10歳のおいらっくすはこれを面白可笑しく、小学生の僕に語っていた。

 

 

 

 

それを聞いた僕は僕で、自分の父と母の夫婦喧嘩の話などをまた面白可笑しく話していた。

 

10歳の僕は、この時どこの家も同じような両親がいて、同じように喧嘩をする、同じ生活を送っているものだと思っていた。

 

####

 

僕は小学四年生くらいから、よくおいらっくすの家に遊びに行くようになった。おいらっくすには姉が一人いて、両親と父方の祖父と暮らしていた。

 

 

彼の家は母屋と離れに分かれており、そして敷地内には祖父の仕事の関係で工房があった。

 

上記した家の配置はすこし変わった作りではあったが、僕たちの地元によくある大きさの家で暮らしぶりもまた、特に貧しいわけでも裕福なわけでもなさそうだった。

 

ただ、彼の家に遊びに行くことは僕にとってある種の異文化体験だった。おいらっくすには年上の姉がいたからだ。

 

彼の家に行くと、そんな姉の影響を受けて少しマセた世界を知ることが出来た。本棚(漫画しかない)には、ジャンプやマガジンの人気連載が揃っていた。これは当時コロコロコミックしか読んでなかった僕にとって刺激的だった。

 

 

そして姉の部屋、もとい年上の女性(といっても中学生)の部屋は僕にとって衝撃的な光景だった。

 

壁に無造作に貼られているアニメのポスター、女の子の服が無造作にかかる衣装掛け、どこか知らない場所で女友達と撮っている写真。

 

特に淡いピンクのベッドカバーは、10歳の、まだ光を浴び始めて10年にも満たない僕の網膜に焼き付いた。

 

ふと彼女の勉強机の側面に目をやると、「蓮×ホロホロ」と彫刻刀で文字が刻んであった。

 

その時僕にはそれが何を意味するのか分からなかった。今思えば、それは当時人気ジャンプキャラのBLカップリングだった。

 

中学生に進学したばかりの彼女は、すでに芽生えた性欲を発散させる必要に迫られていた。そして彼女は彫刻刀を握った。

 

 

湧き上がる情欲を吐き出す行為として中学生の彼女は、まず好みの男性キャラを、その拙い想像力の中で陵辱することから始めたのだろう。

 

「蓮とホロホロを×ってどういう意味だろうか」、僕は少女の性的衝動の痕跡であるそれをなぞりながら考えていた。

 

「なぁこれ見てみ!」。ふと10歳のおいらっくすが僕に話しかけて来た。僕は姉の机から目を離し、彼を見た。

 

 

 

 

おいらっくすは、一メートルほどの塩化ビニールのパイプと、何か尖ったものを持っていた。

 

 

「これ俺のお父さんが作ったんだよ」、と彼は面白そうにそれを見せてきた。尖ったものは、錆びた釘を円錐形の厚紙で巻いたものだった。これは僕が人生で初めて「吹き矢」を見た瞬間だった。

 

「これでお父さんは家に入って来た野良猫を打ったんだ」。とおいらっくすは楽しそうに話していた。ただ、お父さんは怖いから、時々この塩化ビニールのパイプで家族を殴る時があるとおいらっくすは語っていた。

 

 

僕は試しにその吹き矢を吹かせてもらった。おいらっくすの父が家族を殴るための、塩化ビニールパイプに円錐形の厚紙を装填する。

 

僕はそれがよく刺さるよう、事前に錆びた釘の頭を円錐の中から少し出した。

 

そして大きく息を吸い込み、ぶぅとパイプの中に吹き込んだ。すると釘は勢いよく飛び出し、おいらっくす家の漆喰の壁に突き刺さった。

「おいやめろ!父さんに怒られるだろう!」。おいらっくすは珍しく声を上げた。漆喰の壁はボロっと少し崩れた。

 

子供の肺活量でもこの威力だ。身体の大きなおいらっくすの父がこれを打ったらどうなってしまうのだろう。

 

僕は塩化ビニールパイプを握ったままそう考えていた。錆びた釘は、壁に刺さり直立している。

 

 

「そろそろご飯食べるから降りてきなさい」。おいらっくすの母が、家の2階で遊んでいた僕たちを呼んだ。

 

 

 

 

この日は、クリスマスイブだった。なので、彼の母は家族のためにごちそうを用意していた。そろそろ帰らないと、と思い、僕は下の階に降りた。

 

クリスマスイブのおいらっくす家の食卓には、ポークソテーとスーパーで買ってきたケーキが並んでいた。

 

僕の家では毎年クリスマには鳥の丸焼きをオーダーし、母が焼いたケーキを食べていた。「僕の家のほうが豪華なんだ」。子供心にそう感じていた。

 

 

ただ、僕は食卓の上にある内容より、その彼らの風景・雰囲気に驚きを隠せなかった。

 

クリスマスイブのおいらっくす家の食卓では、母が黙々と料理を作り、姉は席に座り漫画を呼んでいた。蛍光灯の事務的な灯りのもと、誰もが押し黙って何かを待っていた。

 

 

「ヨシヲお父さんが帰ってくる前に、宮崎くんに帰ってもらいなさい」。おいらっくすの母はそう幼いおいらっくすに言った。

 

帰り道、僕は想像していた。おいらっくすの父、ヨシヲがあの場所に帰ってくることを。

 

僕の頭の中では、仕事から帰って来たヨシヲの手には、すでに塩化ビニールのパイプが握られていた。

 

 

「おかえりなさい」。家族はいつも通り、手順を間違えないようにそうヨシヲを迎え入れいる。

 

するとヨシヲは、おもむろに塩化ビニールパイプの吹き矢を口に咥えた。そして、まるで戦車砲を旋回させるかのように、吹き矢を咥えたまま家族を一人一人見渡し始めた。

 

 

姉、おいらっくす、そしておいらっくすの母の順にヨシヲの吹き矢の照準が移っていく。

 

それでも母は黙々と料理を作り続けている。ヨシヲは特に彼の妻に対して念入りに、つま先から頭部にかけて、ゆっくり点検するように吹き矢の照準を動かしていく。

 

「飯はまだ出来てないのか?」。ヨシヲは塩化ビニールパイプを口から離し、そう母に問いかけた。

 

その後、おいらっくすの家族は皆でクリスマスイブのごちそうを囲んだ。彼らは相変わらず黙々と料理を食べている。塩化ビニールの銃口の下で。

 

 

僕は家に帰り、家族とクリスマスイブの食事を囲みながら、今日おいらっくすの家にいったことを話していた。ただ、そこに塩化ビニールと錆びた釘の吹き矢が有ったことだけは話さなかった。

 

#####

 

「あそこの家は離婚したらしいよ。これは絶対おいらっくす君に直接言ったらだめだよ!」。

 

あれから半年後、僕の母は僕に話を聞かせた。

 

しかしある日の昼下り、僕が彼と遊んでいる時、お腹が空いたという彼に対して、「家に帰ったらお母さんが料理を作って待っているよ」、と誤って言ってしまった。

 

「母さんはいないんだけどね」。と彼は気まずそうにそう答えていた。そして、近くのコンビニでカップ麺を買って食べていた。

 

この時の僕たちには、僕たちの未来を想像するための手がかりはあっても、想像力そのものがなかった。

 

 

次回へ続く。

何故、パチスロブロガーになってしまったのか 中編

 

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